歴史的価値とは別に、ワイン原料として魅力がなければ独自性は生まれません。甲州葡萄の魅力を最大限に生かし、旨みを凝縮させることで、最高のワイン原料となります。
食用としておいしい葡萄ではなく、醸造用として最高の葡萄を作り上げるために、大和葡萄酒では「不可能」と130年間言われ続けた垣根栽培に成功しました。
世界品質のワインを醸造するためにまず重要なのが産地形成です。
甲州種を含め国産ワインの多くが、食用に作られたブドウを醸造原料に流用しています。本来、高品質のワイン生産のためには醸造用ブドウの栽培が必要不可欠です。
ワインに適しているブドウは、皮が厚く凝縮感が高い、小さい粒で粗着性のブドウです。まず食用ブドウと醸造用ブドウを分ける事が必要です。醸造原料となる高品質の醸造用ブドウを生産し甲州種ワインの品質を向上させる事こそが、
世界の中での甲州ワインの評価を高める事となり産地確立に繋がります。
私は凝縮をテーマに世界のレべルに並ぶブドウをつくり続けます。
1. 現状の把握 樹液流センサーの導入
現状と改良の効果を数値で確認するため、樹液流センサーを使用したブドウ栽培を行っています。樹体の中を流れる樹液量の測定と保水量の計測を実施する事で効果的な栽培が可能になりました。
2. 葉の量は同じで収量が少ない品種の選択
葉の量が同じ場合、粒の収穫量が少ない方がブドウ一粒に行き渡る栄養が多くなり凝縮が高まります。そのため密着系ではなく粗着系の「甲州種」を選択しました。
3.葡萄の小粒化種なし葡萄栽培
さらにブドウ一粒一粒へ行き渡る栄養を凝縮するために「甲州種」の小粒化に取り組み、試行錯誤の末、種なしブドウという答えに辿り着きました(白ワインには種に含まれるタンニンが必要ありません)粒の 種を無くす事で一粒の直径が従来の半分の1cmになり、ワインの味を大きく左右するアミノ酸を凝縮したブドウが完成しました。
4. 生育内容のバランスを抑制する4倍体台木栽培
樹体の生育を抑制する事で生育に費やされる栄養が粒に活用され、良質なブドウが栽培可能になります。生育を抑制するために染色体数を通常の4倍にした5BBグローアル台木を使用した栽培法に取り組んでいます。
5. 葡萄の糖度向上水分抑制
春から秋に一定の水分を与えた樹体は光合成が活性化しアミノ酸や糖などの栄養分を形成します。保水率を計測し収穫前に水分を抑制する事で粒に養分を凝縮させる事が可能になります。
6. 棚栽培では葉面積の計測は困難垣根栽培
生育抑制の効果を高めるためには、葉の面積把握と、葉からの成分数値データ採取が不可欠です。従来の棚栽培では困難だった葉の面積計測や樹体データの採取が垣根栽培では容易に行えます。 垣根栽培は棚栽培と比べ粒の収穫量が少なくアミノ酸や糖などの栄養分が凝縮されています。欧州のワインメーカーでは醸造原料に適した粗着性のブドウは垣根での栽培が行われています。大和葡萄酒は「絶対不可能」と言われてきた甲州ブドウの 垣根式栽培に挑み15年の歳月を経て見事に成功させました。
アミノ酸や糖などの栄養分を凝縮した高品質の醸造用ブドウを生産するには、従来の棚式栽培方法ではなく、欧州のワインメーカーと同様の垣根式栽培方法で行う必要がありました。
しかし甲州種は 枝が横に向かって伸びるため、棚栽培が主流であり、欧州種のように苗を土に植えて枝葉を縦列で育成する垣根栽培は山梨県内全てのワイナリーが「絶対不可能」と言いきってきました。
しかし私は15年前から、甲州種の古木「甲龍」から枝分けした樹を使用し、その「絶対不可能」だった甲州種の垣根式栽培の実証実験を始めました。横に伸びる枝をあえて切らず、余分な枝を伸ばす事で樹を疲弊させ成長を抑制する等の栽培方法を工夫
しました。
また農場には貝殻の粉末をまき、ミネラル分を豊富に含ませるなど成分面からの工夫も挑みるなど試行錯誤の末、見事に甲州種の垣根栽培を成功させました。
そして収穫した粒の成分を調べた結果でもアミノ酸が同一種の棚栽培と比べて1.5倍含まれている事が判明。同様に味を良くするアラニンの量は3倍、ブドウの粒を小さくするプロリンの量は1.5倍となり、
栄養度の高いブドウをつくりあげる事にも成功しました。成功のポイントは10ha当り1tの収穫量が得られる栽培を行う事にあります。
これらの努力は日本ワインの未来を大きく変える礎になると信じています。
さらに凝縮した高品質の醸造用ブドウを生産する手段としてブドウの小粒化を思いつき、4年前から甲州種の種なし処理に着手しました。
食用のデラウエアや巨峰などでは広く行われている種なし処理ですが、甲州種では収穫量が減ることからまったく普及していませんでした。実際に県果樹試験場でも試験的に栽培を試みましたが、粒がそろわないなどの難点が多く、
実用化には至りませんでした。
私はあえて挑戦を試みました。試験栽培では種がある甲州ブドウを種なしにするための液剤を散布。試行錯誤の末、種なし化を実現しブドウの粒を従来の直径2cmの半分となる1cmまで小粒化する事に成功しました。
こうして「前代未聞の甲州種の種なしブドウ」が完成し、成分の分析を公的機関に依頼した結果、アミノ酸数量が通常の甲州ブドウでは一粒1200ppmなのに対し、試験栽培の種なしブドウでは2100ppmと大幅に上昇しました。
この数量は欧州のボルドーワインとほぼ同量です。
この種なし甲州ブドウでワインを醸造する事により、酸味と糖度が凝縮された「濃厚で熟成された味わい」の世界基準に全く引けを取らない白ワインが完成しました。
「サッパリとしていて軽い味わい」といったこれまでの甲州ワインとは一線を画した成果です。
私は種なし甲州が新しい日本のワイン文化のあり方を提案するきっかけとなるものと確信しています。